2019年4月より新しい在留資格である「特定技能」の運用が開始されました。特定技能の仕組みでは、外国人をサポートする登録支援機関が創設され、これまで技能実習制度で外国人人材を受け入れてきた協同組合などの監理団体からの注目が集まっています。
この登録支援機関と、技能実習生の監理団体はどちらも外国人労働者をサポートする機関ですが、その性質は少々異なります。しかしながら、技能実習2号を修了した外国人は日本語・技術の試験免除で「特定技能1号」を取得できる特例があるなど、技能実習制度との関連性も無視できません。
特定技能の在留資格で、協同組合はどのような役割を果たすのか。技能実習制度とのかかわりをもとに、考えてみましょう。
目次
協同組合とは?相互扶助を目的とした中小企業や個人の集まり
そもそも、協同組合とは利益を目的としない団体のことをいいます。農業や漁業など、特定の分野に特化した組合もあれば、異業種で集まる組合もあります。経済的に弱い立場の個人や中小企業が集まることにより、生産性の向上や組合員の生活の向上を図ることを主な目的としています。
こうした協同組合が実施する事業は、多岐にわたります。農協のように、組合員の農畜産物を効果的に販売できるよう販売ルートを確保したり、組合員からの預かり金を原資に貸し付けを行ったりする信用事業などが事業の例となります。
そして、海外から技能実習生を受け入れ協同組合の傘下にある企業や団体に受け渡すのも、今日の協同組合(監理団体)における重要な事業となっています。
技能実習制度で協同組合が果たす重要な役割とは?
技能実習制度とは、日本の技術移転を目的に諸外国から外国人を受け入れる国際貢献を目的とした取り組みです。技術・知識の習得を前提に、開発途上国等から人材を受け入れ、国際協力を推進しています。
在留の期間は最長で5年とされ、2020年10月末の技能実習生の数は40万人に上ります。受け入れる方式は、「企業単独型」と「団体監理型」の2通りあります。
2019年度のデータでは、全体の97.3%が団体監理型で受け入れています。この団体監理型で海外の送り出し機関から技能実習生を日本に受け入れ、中小企業(実習実施者)に受け渡している監理団体が、上述した協同組合です。
ほかにも、商工会等の営利を目的としない団体が、技能実習生を団体監理型で受け入れることができます。
技能実習生の受け入れをサポート・監査する監理団体
外国から人材を受け入れる・雇用するのは、様々な面での知識や配慮が求められます。海外の現地事情に精通していること、外国人の文化的背景を理解し、日本での就業をスムーズに開始できるようサポートすること。
そして、5年間にわたる滞在期間で問題なく在留できるよう適切な管理・監査が必要です。こうしたサポートを中小・零細企業が単体で実施するのは非常に大きな負担となります。経済的・人的基盤が整っている協同組合が取りまとめることで、外国人人材受け入れの経験が蓄積され、技能実習生を必要とする受け入れ先に円滑な受け渡しができるようになります。
受け入れを行う監理団体は登録制で、実習生の滞在施設の確保、日本語教育や文化理解の講習の実施などの責任を担っています。また、技能実習生を受け入れている実習先(企業や農家)を定期的に訪問し、労働法に違反するような扱いをしていないか監視する機能も果たします。
「特定技能」での協同組合のかかわり:登録支援機関になるには?
では、新しく創設される「特定技能」の枠組みのなかで、協同組合はどのようなかかわりができるでしょうか。一つ考えられるのが、外国人の受け入れを支援する登録支援機関となることです。
以下に、特定技能の登録支援機関とはなにか、どんな団体・個人がなれるのかをご説明します。
特定技能の外国人の生活全般をサポートする登録支援機関
特定技能の在留資格では、外国人と雇用契約を結んだ受け入れ機関(企業)が特定技能の外国人を受け入れます。この際、職務上・生活上・社会上に必要な支援計画を実施することが定められています。
支援計画の内容は、入国前のサポートから空港送迎、滞在場所の確保、生活ルールの情報提供、日本語教育のサポート、滞在中の苦情やトラブルの対応等多岐にわたります。受け入れ企業に代わり、この支援計画の作成・実施の代行を認められているのが登録支援機関です。
監理団体と同様に登録制で運営される予定で、登録にあたっても細かい条件をクリアしなければなりません。
登録支援機関に求められる2つのポイント
登録要件は細かく規定されていますが、大きなポイントは次の2つです。
- 機関自体が、適切であること
- 外国人を支援する体制があること
一つめは、過去5年以内に出入国管理法や労働法で違反をしていない機関(団体・個人)である必要があります。過去に、受け入れていた外国人が不法滞在で強制送還されたり、違法な業務に従事させていたりなど、悪質な団体を退ける狙いです。
また、外国人を適切に支援する体制が整っていなければなりません。これには、支援責任者と1名以上の支援担当者がいること。外国人の必要な言語でサポートできる体制があることが含まれます。
上記のことから、外国人受け入れの経験がある技能実習制度の監理団体(協同組合)や人材紹介会社、社労士や行政書士が登録支援機関として想定されています。
監理団体と登録支援機関の違い:協同組合は登録支援機関になれるのか?
上述の登録支援機関のポイントを見る限り、技能実習制度で監理団体として登録していた協同組合も、登録支援機関の条件を果たすと予想されます。
しかしながら、監理団体と登録支援機関は別物であると考える必要があります。
上下関係のある技能実習制度、フラットな特定技能
監理団体は、外国人人材を受け入れ、受け入れ先の企業や団体に派遣します。これにより、監理団体と受け入れ機関の間には上下関係が生まれます。受け入れ先で問題なく外国人の実習が行われているか、監督責任を負っているのが監理団体だからです。
一方で、特定技能における登録支援機関と受け入れ機関(企業)の関係は対等です。
なぜならば、外国人と雇用関係を結ぶのは受け入れ機関であり、登録支援機関はサポートのための役割が大きいからです。支援計画には、定期的な面談と、労働基準法違反等の通報が含まれていますが、監理団体と比較すると、企業側を監督・指導する側面が弱い傾向にあります。
技能実習2号からの切り替えで期待される協同組合の役割
特定技能の制度で、注目するべきは技能実習2号から特定技能1号への切り替えが可能となっている点です。技能実習2号を修了した外国人は、日本語試験・技能試験をパスして特定技能1号の在留資格を得ることができます。
技能実習2号は技能実習3年目終了時にあたります。最長5年が技能実習制度の受け入れ期間ですから、このままでは残り2年の在留しか許可されません。しかし、特定技能1号に切り替えれば、上限通算5年までの滞在が許可されます。
協同組合の役割が期待されるのは、この技能実習2号から特定技能1号への切り替えです。すでに監理団体として活動している協同組合には、受け入れている技能実習生がいます。この技能実習生に特定技能についての正確な情報提供とサポートが行えれば、スムーズな切り替えが期待できます。
監理費はどうなる?登録支援機関は業務委託を締結する
技能実習制度では、監理団体は実習生を受け入れている実習先から、監理費を受け取り、事業を運営しています。特定技能の仕組みでは、この監理費の文字は見当たりません。代わりに、登録支援機関は受け入れ先機関と業務委託を締結して、支援計画を作成・実施することとなっています。
つまり、監理費のような名目はなくなり、代わりに支援計画を実施するという形で、受け入れ機関から対価を受け取ります。なお、登録の要件にあるように、外国人本人に支援計画の費用を負担させてはいけません。
まとめ:協同組合の監理団体としてのノウハウを生かせる可能性がある
新しい「特定技能」の仕組みでは、協同組合のかかわりは技能実習制度の監理団体と同一ではありません。支援計画を代行する登録支援機関と外国人人材を受け入れる機関がフラットな関係の分、受け入れ機関にはより適切・合法的な対応が外国人労働者に求められます。
一方で、外国人受け入れの体制や知識、経験を有している協同組合は、特定技能の登録支援機関になれる可能性があります。特定技能の支援計画は、単純な職務上のサポートにとどまりません。
生活上・社会上のサポートまでふくめてスムーズな定着を支援するのが狙いです。これらの一企業が実施するのは、非常に負担の大きいことと考えられます。
その点で、ノウハウのある協同組合が登録支援機関として果たせる役割は大きいといえます。技能実習2号から特定技能1号への切り替えにも、積極的なかかわりのチャンスが期待できます。